独占禁止法について(その2)

2020年7月28日

独占禁止法についての記事の第2回目です。
今回は、前回に述べた独占禁止法の制定理由について補足するとともに、独占禁止法上の違反行為を概観したいと思います。

独占禁止法について〔その2〕

1. 独占禁止法制定の理由(補足)
(1) 日本及び米国における独占禁止法制定時の歴史的根拠
 前回、独占禁止法は、日本の軍国主義の再興を防止するため、日本経済の民主化を図ることを目的として制定されたことを説明しました。すなわち、独占禁止法は、日本経済の復興、活性化という経済的根拠ではなく、政治的根拠に基づいて制定されたのです。
 この点は、実は、日本の独占禁止法の母法とされる米国の反トラスト法においても、同様でした。米国の反トラスト法は、19世紀の後半、競争の回避という思惑の下に形成されてきたトラストという企業結合による経済力の濫用に対抗するために制定されました。「トラスト」とは、特定の受託者が、参加企業の株主から株式の信託(trust)を受け、それと交換に証券を交付することにより、受託者が参加企業の経営権を掌握し、参加企業から上がる利益は、委託者である旧株主に証券の保有量に応じて配当されるというものです。反トラスト法制定の根拠となった考え方は、トラストという巨大な企業結合から、米国の建国以来の政治的思想である平等、自由、独立を確保しようとするものであったと言われています。
 すなわち、日米ともに、独占禁止法ないし反トラスト法制定の理由は、経済的なものではなく、政治的哲学的なものであったことになります。

(2) 現在における独占禁止法の存在理由――経済の活性化と消費者の利益
 しかし、現在においては、日米――のみならず、第二次世界大戦後、何らかの形で独占禁止法が制定されている他の国々においても――ともに、独占禁止法ないし反トラスト法の存在理由については、もっぱら経済的根拠によって説明されています。
 市場における競争が活発であれば、経済が活性化し消費者も利益を受けることは、常識的にご理解いただけると思います。
 この点については、ミクロ経済学で厳密な検討が行われています。今、そのエッセンスだけご紹介すれば、次のとおりです。
 ミクロ経済学においては、「完全競争」という経済モデルが用いられます。これは、次のような仮定を置いたモデルです。
一 企業も消費者も非常に多数存在しており、各企業の供給数量、各消費者の需要数量は市場全体の中で極めて小さいこと。
二 その市場において各企業が供給する商品は同質であること。
三 各企業・各消費者は、その商品の価格や品質について完全な情報を持っていること。
四 企業がその市場に参入するのも退出するのも自由であること。
 これらの仮定のうち、二ないし四を前提として、一は、個々の企業や個々の消費者が、供給又は需要する数量を変化させても、価格に対して影響力を持たないことを意味します。
 そして、ミクロ経済の分析結果によれば、完全競争下で供給される数量が社会全体の利益(消費者と生産者が得る利益の総計。「社会的総余剰」と呼ばれる)を最大にする最も効率的な生産数量であることが証明されています。
 また、完全競争のいわば正反対の状況である「独占」市場(単一の企業のみがある商品の供給を行っている市場の状況)においては、社会全体の利益は完全競争市場の場合よりも減少し、また、「寡占」市場(市場において、ある商品が2つ以上の比較的少数の企業によって供給されている状況)においても、独占の場合に準じた問題が生ずることが知られています。
 完全競争というのは、かなりバーチャル(仮想的)な状況であり、現実にはあまり存在しないと言われていますが、理論的に最も競争が活発な状況であり、そのような市場において、社会全体の利益が最大となり、独占や寡占の市場においては、社会全体の利益が減少するということは、競争が活発であるほど、経済が活性化し、消費者が大きな利益を得られることを推論することができます。
 このことは、私たちに身近な例でも理解しやすいと思います。
 すなわち、次の二つの状況を想定してみましょう。
〔ケースA〕駅前に、スーパーマーケットが1軒あり、他に小売店が存在しない状況
〔ケースB〕駅前に、スーパーマーケットが2軒あり、他に、百貨店、コンビニエンスストア、中小小売店から成る商店街もある状況
 ケースAは、駅前の小売市場を1軒のスーパーが独占している状況であり、それに対し、ケースBは、駅前の小売市場において、多数の、また業態を異にする店舗が競争を展開している状況です。
 ケースAにおいては、唯一のスーパーは、特に努力をしなくても、その駅前で買い物をしようとする顧客のすべてを獲得することができるのに対し、ケースBにおいては、各店舗は、顧客を獲得するために、他の店舗との競争に勝ち抜く必要があり、商品の価格を安く、品質を高くするなど、懸命の努力をする必要があります。
 いずれのケースにおいて、各店舗の経営がより効率的なものとなる必要があるか、また、
消費者の利益が大きくなるかは、言うまでもなく、ケースBです。

(3) 補強的な存在理由としての政治的哲学的根拠
 このように、現在においては、独占禁止法の存在理由は経済的根拠によって説明されているのですが、独占禁止法の違反行為の中には、経済的理由のみによっては説明がやや困難なものもあります。後述2.四の企業結合に対する規制の中に、一般集中の規制(9条、11条)というのがあり、これは戦前の財閥のような存在の再来を防止しようとするものですが、これがそれに該当します。これらについては、政治的哲学的理由によってその存在理由を補強的に説明すべきであるという見解があります。もっとも、政治的哲学的理由といっても、さすがに、軍国主義の再興の防止というのは現在では妥当しませんが、文脈の歴史性を払拭して、より一般的普遍的なものに敷衍した上、次のような立言に置換すれば、独占禁止法の補強的な存在理由として挙げることが可能と思われます。
〈経済力が特定の主体に著しく集積することは、経済的にみて他の主体の自由な活動を抑圧するのみならず、政治的にも、その経済力の濫用や政治権力等との癒着により、一般の国民の権利・自由を脅かすものとなるおそれがあるので、抑止すべきであること〉

2. 独占禁止法上の違反行為の概観
 独占禁止法の条文は、以下のWebサイト(公正取引委員会のホームページ)からご覧いただけますので、適宜ご参照下さい。

https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/lawdk.html

 独占禁止法は、公正取引委員会という国の行政機関が所管している法律です。公正取引委員会は、内閣府の外局の一つです。
 独占禁止法に違反する行為を行うと、公正取引委員会により行政処分(排除措置命令、課徴金納付命令)が課されたり、場合によっては、刑罰が科される場合もあります。
 独占禁止法に違反する行為には、次のようなものがあります(なお、厳密に言えば、以下の七は、行為ではなく、市場の構造を規制の対象としています)。
一 私的独占(2条5項、3条、7条、7条の9)
  他の事業者の事業活動を排除・支配することによる競争制限的行為。
二 不当な取引制限(2条6項、3条、7条~7条の8)
  複数の事業者が合意の下に、相互に事業活動を拘束する競争制限的行為。いわゆる「カルテル」。
三 不公正な取引方法(2条9項、18条の2~20条の7)
  共同の取引拒絶(共同ボイコット)、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用など多数の違反行為から成る。
四 企業結合に関する規制に違反する行為(9条~18条)
  株式の保有、合併等の企業結合による競争制限的行為。
五 不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定・国際的契約(6条、7条~7条の8)
  国境をまたぐ競争制限的行為。
六 事業者団体に関する規制に違反する行為(8条~8条の3)
  業界団体等による競争制限的行為。
七 独占的状態(2条7項・8項)
  高度に寡占的な市場構造に対する規制。
 これらのうち、最も重要で基本的なものは、一及び二であり、三以下は、一及び二を補完するための規制です。三以下の中では、三と四とが重要なものとされています。このため、一から三までを「独占禁止法の三本柱」、これに四を加えて、「独占禁止法の四本柱」と呼んでいます。

 以下においては、独占禁止法の目的規定(1条)に触れた後、個別の違反行為について、一から四までを中心に説明をしたいと思います。

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