独占禁止法について(その4)

2020年11月6日

独占禁止法について〔その4〕

1. はじめに
(1) 私的独占の位置付け
 私的独占とは、簡単に言えば、他の事業者の事業活動を排除・支配することによる競争制限的行為です。
 私的独占は、独占禁止法上の違反行為の中でも、不当な取引制限と並んで、最も重要で基本的なものとされています。
 なぜそうかというと、私的独占の効果として生ずる競争の実質的制限(後述)とは、独占禁止法違反行為の中で、公正かつ自由な競争という独占禁止法の目的を最も大きく侵害するものであるからです。

(2) 私的独占と不当な取引制限
 ここで、私的独占と不当な取引制限という2つの違反行為を簡単に比較しておきましょう。
 私的独占と不当な取引制限は、独占禁止法2条5項・6項において、次のように定義されています。
〔私的独占〕
2条5項
 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若  しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
〔不当な取引制限〕
2条6項
 この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

これらは、いずれも、かなり複雑で錯綜した定義のようにみえるかも知れません。しかし、これらの定義には、例示の部分が多く、その部分を除いて読めば、それほど複雑な定義ではありません。例示の部分を除けば、両者の定義は、次のとおりです。
 私的独占
(1) 事業者が、
(2) 他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、
(3) 公共の利益に反して、
(4) 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
 不当な取引制限
(1) 事業者が、
(2’) 他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、(3) 公共の利益に反して、
(4) 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

 この両者を比較すれば、(1)、(3)及び(4)は全く同一であり、(2)と(2’)のみが異なっています。
 そして、独占禁止法3条は、「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。」と、両者を一括して禁止しています。

2. 私的独占の要件
 ここでは、私的独占とはどんな行為なのかを理解するために、上記1.の私的独占の定義を構成する要件を個別に説明します。

(1) 事業者
 独占禁止法上の違反行為の多くは、「事業者」を主体としています。
 独占禁止法2条1項の前段には、「『事業者』とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。」という定義規定が置かれています。
 この事業者の定義は常識的なものですが、独占禁止法上の事業者という語は日常用語における用例よりもやや広く解されており、(a)営利事業に限られず、非営利事業を行う者も含まれること、(b)医師や弁護士など、専門的資格を有する自由業者も含まれること、に注意が必要です。

(2) 他の事業者の事業活動の排除又は支配
 私的独占が成立するためには、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配するという事業者の行為が必要です。
私的独占とは、その名称がミスリーディングであるために、当該事業者が単に市場において独占的地位にあることという「状態」を指す観念のようにしばしば誤解されるのですが、そうではなく、独占する「行為」を必須の要素としそれにより競争制限効果が生ずることを指すことをご理解下さい。その行為が「排除」又は「支配」です。
 それでは、この「排除」又は「支配」とはどのような行為なのでしょうか。実は、この2つの行為の意味は必ずしも明確ではありません。
 ます、「排除」についてですが、他の事業者の事業活動を「排除」することの意味について、学説上、「他の事業者が事業活動を継続すること、又は新規参入することを困難にすること」を指すという限度ではほぼ一致しています。しかし、このような説明に、①「ただ非難に値する手段を用いた場合にのみ違法性を帯びる」、②「排除されている状態それ自体ではなく、その状態をもたらす人為的な反競争的行為」、などと付加的な説明をするのが近年一般的になっています。
 このような付加的な説明がなぜ必要とかというと、事業者の正当な企業努力の結果として、他の事業者の事業活動の継続や新規参入が困難となることがあり得るのですが、このような場合を違法行為から排除する必要があるからです。すなわち、このような場合は、競争の結果として生ずることです。もし、公正かつ自由な競争の促進を目的とする独占禁止法がこれを違法とするとすれば、独占禁止法自身が競争の成果を否定することとなります。それゆえに、上記のような付加的な説明を加えることにより、違法とすべき場合を限定しようとしているのです。
「支配」については、学説上、「何らかの方法によって、他の事業者の事業活動に関する意思決定を拘束し、自己の意向に従わせること」などと説明されていますが、これについても、もう少し違法となる行為を限定すべきでしょう。一案としては、「不公正な取引方法に該当する行為等の公正競争阻害性を持った行為を手段として」というような付加的な説明を加えることが考えられます。

(3) 公共の利益に反して
「公共の利益に反して」という要件は反公益性の要件と呼ばれます。
 ここにいう「公共の利益」とは何かという問題は、実は、独占禁止法解釈上の大きな問題の一つであり、議論のあるところです。この問題は、不当な取引制限に関して特に問題となるので、詳細は不当な取引制限の解説において述べることとします。
 ここでは、通説は、この「公共の利益」の意味を「自由競争を基盤とする経済秩序そのもの」を指すものと解していることだけ述べておきます。このように解すると、私的独占には、別途、次の(4)の「一定の取引分野における競争の実質的制限」という要件があるところ、(4)の要件を満たせば、当然に、この(3)の要件をも満たされることとなります。

(4) 一定の取引分野における競争の実質的制限
「一定の取引分野」とは、独占禁止法独特の用語ですが、「相互に競争関係にある供給者群と需要者群との間の取引の場」を意味します。これは、経済学で言う市場(しじょう)(マーケット)のことです。
「競争の実質的制限」とは、あまり明瞭ではない言葉ですが、通説は、市場支配力を形成し、維持し、又は強化することであるとし、そこにいう「市場支配力」とは、市場がより競争的であったならば決定されたであろう価格その他の取引条件よりも、自己に有利な取引条件を設定することができる力をいうと解しています。
 判例も、概ね同様の解釈を採っており、例えば、東京高判平成21年5月29日審決集56巻第2分冊262頁(NTT東日本事件)は、競争の実質的制限の意味について、「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者団体がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を形成、維持、強化することをいうものと解される」と判示しました。
 かつて、完全競争について説明したとき(独占禁止法の記事の第2回目)、「完全競争」とは「個々の企業や個々の消費者が、供給又は需要する数量を変化させても、価格に対して影響力を持たないこと」を意味すると述べました。これは、取引条件のうち最も重要な価格を例に説明をしたものでしたが、要するに、競争が活発な状況においては、商品や役務に係る取引条件を単独の事業者によって左右することはできません。もっとも、ある事業者が自己の商品に市場価格よりも高い価格をつけることは自由ですが、消費者は誰もその事業者の商品を買わないでしょう。これに対し、競争の実質的制限とは、特定の事業者によって市場の競争が大きく損なわれ、取引相手は、その事業者が設定する取引条件を受け入れることを余儀なくされる状況です。

3. 私的独占を行った場合の制裁
(1) 行政処分
 私的独占に対しては、公正取引委員会によって、排除措置命令がなされます(独占禁止法7条)。
また、同じく、公正取引委員会によって、課徴金納付納付命令がなされる場合があります(同法7条の9)。納付が命じられる課徴金額の算定はやや複雑ですが、大まかに言えば、法律が定める一定の基礎となる金額(違反行為者が当該違反行為に係る一定の取引分野において供給した商品・役務の売上高等)に、支配型私的独占の場合は10%を、また、排除型私的独占の場合は6%を乗じることにより行われます(同条1項・2項)。

(2) 刑罰
 私的独占を行った場合、5年以下の懲役又は5百万円以下の罰金に処せられます(独占禁止法89条1項1号)。

4. 私的独占の具体例
 ここでは、私的独占の具体例について、現実に生じた事件の中からいくつか紹介しておきましょう。
 第一に、ぱちんこ機製造パテントプール事件(勧告審決平成9年8月6日審決集44巻238頁)を取り上げます。これは、パテントプール(ある技術に特許権を有する複数の者が、それぞれが有する特許権や当該特許権についてライセンスをする権利を一定の企業体や組織体に集中し、当該企業体や組織体を通じてその構成員等が必要なライセンスを受けるもの)を形成している事業者が、新規参入を希望する事業者にライセンスすることを拒絶したことが排除による私的独占に該当するものとされました。
〔事実関係〕
  ぱちんこ機製造販売業を営み、国内において供給されるぱちんこ機のほとんどを供給する10社、及び、これら10社が実質的に支配権を握り10社からぱちんこ機の製造に関する特許権・実用新案権の通常実施権の許諾等の業務を受託している株式会社日本遊技機特許運営連盟(遊技機特許連盟)が、昭和58年春頃、いわゆるフィーバー機と称するぱちんこ機が登場しぱちんこ機の市場規模が拡大して魅力あるものとなってきた中で、既存の製造業者の市場占有率を確保し、製造業者間での価格競争等を回避してきた従来の体制を維持するため、遊技機特許連盟が所有又は管理運営する特許権等の集積に努め(パテントプールの形成)、ぱちんこ機の製造分野への新規参入の障壁を強化した上、参入希望者に対して特許権等の実施許諾を拒絶した。
〔審決要旨〕 
  「10社及び遊技機特許連盟は、結合及び通謀をして、参入を排除する旨の方針の下に、遊技機特許連盟が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を拒絶することによって、ぱちんこ機を製造しようとする者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国におけるぱちんこ機の製造分野における競争を実質的に制限しているものであって」、これは、「私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」

第二は、NTT東日本事件(最判平成22年12月17日民集64巻8号2067頁)です。この
事件は、最高裁まで争われた事件で、通信会社の通信サービスの料金設定について、排除による私的独占に該当されるものとされました。
〔事実関係〕
  本件は、光ファイバ設備を用いた通信サービスに関する私的独占事件である。
電気通信事業者が自己の社屋からユーザー宅までを結ぶ光ファイバ(加入者光ファイバ)を敷設してネットワークを構築するためには、多額の費用及び管路・電柱等の賃借手続等のための長い時間を要するため、自らの加入者光ファイバを持たない電気通信事業者が新たにこれを敷設することは容易ではなく、それを持つ電気通信事業者の加入者光ファイバと接続することが極めて重要である。
この事件で問題となったのは、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)が戸建て住宅向けに提供する「ニューファミリータイプ」と称するFTTHサービスである。
NTT東日本は、他の電気通信事業者が同社に接続料金を支払った上で同社のFTTHサービスと同程度の額のユーザー料金を設定することができるよう、同社のFTTHサービスのユーザー料金について、接続料金を下回らない額に設定してきた。
NTT東日本は、東京電力株式会社がFTTHサービスを開始することを表明したため、これに対抗することができるようユーザー料金の引下げを行った。
この料金引下げにより、ユーザー料金は、新規事業者が1ユーザーにつき支払わなければならない接続料金を下回るものとなった。
公取委は、NTT東日本の上記の行為は同社の加入者光ファイバ設備に接続して戸建て住宅向けFTTHサービス事業を行う事業者の事業活動を排除するものであり私的独占に該当するとする審決を行った(審判審決平成19年3月26日審決集53巻776頁。但し、この審決は、違反行為は既になくなっており、平成17年改正前の独占禁止法54条2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当しないとして、格別の措置は命じなかった)。
  NTT東日本は、本件審決の取消しを求めて訴えを提起したが、東京高判平成21年5月29日審決集56巻第2分冊262頁は請求を棄却したので、NTT東日本が上告した。
〔判 旨〕 上告棄却
  判決は、独占禁止法は、その目的からして、事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものであるとした上、私的独占の要件としての「排除行為」に該当するか否かは、当該行為が「自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競業者の(中略)市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである」と述べた。
その上で、「本件行為は、上告人が、その設置する加入者光ファイバ設備を、自ら加入者に直接提供しつつ、競業者である他の電気通信事業者に接続のための設備として提供するに当たり、加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者としての地位を利用して、当該競業者が経済的合理性の見地から受け入れることのできない接続条件を設定し提示したもので、その単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、当該競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にする効果を持つものといえるから、同市場における排除行為に該当する」として私的独占の成立を認めた。

 第三は、パラマウントベッド事件(勧告審決平成10年3月31日審決集44巻362頁)です。この事件においては、排除による私的独占と支配による私的独占の双方が認められました。この事件は、それほど錯綜していませんので、簡単に紹介します。
 この事件においては、国及び地方公共団体が発注する病院向け医療用ベッドのほとんど全てを製造販売しているパラマウントベッド社が、同社の高い市場占有率を維持し納入価格の維持を図るため、東京都財務局が発注する医療用ベッドの指名競争入札等に当たり、医療用ベッドの仕様に精通していない都立病院の入札事務担当者に対し、同社が実用新案権等の工業所有権を有している構造であることを伏せて、同社の医療用ベッドのみが適合する仕様書(入札に参加する販売業者は、仕様書に定める仕様に適合した製品を納入することが必要)の作成を働きかけるなどによって、同社の医療用ベッドのみが納入できる入札を実現したことについて、他の医療用ベッドの製造業者の事業活動を排除したものであり私的独占に該当するとされました。また、この事件においては、パラマウントベッド社が、本件の指名競争入札等(参加者は販売業者に限定されている)に当たり、落札予定者及び落札予定価格を決定するとともに、当該落札予定者が当該落札予定価格で落札できるように入札に参加する販売業者に対して入札価格を指示し、当該価格で入札させたことについて、これらの販売業者の事業活動を支配したものであり、私的独占に該当するとされました。

5. まとめ
 冒頭1.(1)に述べたように、私的独占は、独占禁止法違反行為の中でも、不当な取引制限と並んで、最も重要で基本的なものとされています。
 しかしながら、これまでに私的独占の成立が認められた事件はごく少数にとどまっています。2015年度(平成27年度)から2019年度(令和元年度)までの5年間において、公正取引委員会によって法的措置が取られた事件の数は、不当な取引制限が43件であるのに対し、私的独占はわずかに1件にとどまっています(令和元年度公正取引委員会年次報告による)。
 このように、私的独占が適用された事件が少ない理由として推測されるのは、次のようなものがあります。
 第一に、上記2.(2)に述べたように、私的独占の行為の要件である「排除」「支配」の定義が必ずしも明確ではないこと。
 第二に、私的独占の要件としての「排除」という行為は、不公正な取引方法という違反行為を手段として行われる場合が多い(上記4.に挙げた事件についても、ぱちんこ機製造パテントプール事件は共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項1号)を手段として行われたものであり、また、パラマウントベッド事件における排除行為は競争者に対する取引妨害(同法2条9項6号ヘ)を手段として行われたものであるところ、これらの手段はいずれも不公正な取引方法に該当します)ところ、規制当局である公正取引委員会としては、そのような場合は、私的独占を適用するのではなく、不公正な取引方法として処理することが多かったと思われること。というのは、不公正な取引方法は、その効果として「公正競争阻害性」が生ずることが必要とされているところ、これは、私的独占の要件としての「競争の実質的制限」よりも、公正かつ自由な競争を侵害する程度が軽いものであるため、規制当局としては、要件の立証が容易となるためです。

 このように、従来は、独占禁止法上の違反行為の中で、私的独占はあまり活用されてきませんでした。
 今後どうなるかを予想するのは困難ですが、私的独占の活用が活発化する可能性はあると思われます。
 というのは、ご存じのとおり、近年、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などと呼ばれる巨大IT企業が極めて有力化していますが、米国やEUでは、これら巨大IT企業が、検索アプリの市場や通信販売サイトの市場などにおいて、他の事業者の事業活動を排除したり、新規事業者を支配下に収めるなどの行動をしていることについて、独占禁止法を適用して規制しようとする動きが活発化しています。
これら巨大IT企業が提供するサービスによって、我々は、一面において大きなメリットを享受しているのですが、他面において、これらの企業による市場の独占的行為が認められるのであれば、実は、我々にはデメリットが生じているのかも知れません。
 公正取引委員会も、巨大IT企業の経済活動を対象とした調査を行う旨公表しています。
 我が国においても、巨大IT企業に対する私的独占の成否が問題となる時期が、遠くない将来に生ずるかも知れません。

 次回からは、不当な取引制限の説明を行います。

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