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  • 2020.07.03

独占禁止法について〔その1〕

プロシード法律事務所で客員弁護士をしている岩本章吾と申します。
事務所ホームページの「弁護士紹介」欄に私の経歴を記載してありますが、私は、国家公務員や大学教員を経て、弁護士となった者です。大学での主たる担当科目は、行政法と独占禁止法でした。
この度、ブログを利用して法律関係の記事を連載させていただくこととなりました。お時間のある時に、読み流していただければ幸いです。
内容は、これまでの経験にかんがみ、行政法や独占禁止法に関するするものが多くなると思います。
ブログをご覧いただく方々に分かりやすく、興味深いと感じていただけるような記事を書きたいと思っています。もし、「もっと分かりやすく書いてもらいたい」「(具体的に)〇〇〇について説明してほしい」などのご意見があれば、何とぞご遠慮なくお寄せ下さい(info@proceed-law.jpまで)。

さて、まず手始めに、しばらくの間、独占禁止法の概要についてご説明する記事を連載するとともに、時にはそれを休んで、行政法等他の法分野のトピックや判例なども取り上げるという形で進めていきたいと思います。

独占禁止法について〔その1〕

1. 独占禁止法の重要性
我が国の法体系は、憲法を頂点とし、法律、政令、省令、条例、規則など無数の法令から成り立っています。
その中に、「経済法」と呼ばれる法分野があります。経済法は、「国民経済の健全な発展を促進するために、国家が、企業活動に対して規制を加えたり企業の振興を図ることにより、経済に積極的に介入する根拠となる法の総称」と定義されます。その中には、独占禁止法の他、各種の事業法(電気事業法、ガス事業法、銀行法、建設業法等)、産業構造の改革を図る法(産業競争力強化法等)、中小企業の振興法など多数のものが含まれますが、独占禁止法は、市場経済の基本ルールを定めたものであるため、経済法の中核的地位を占める法律であると考えられています。
独占禁止法は、公正取引委員会という国の行政庁によって所管されていますが、独占禁止法に違反すると、公正取引委員会によって厳しい行政処分が課せられ、場合によっては、刑罰が科される場合もあります。
それゆえ、事業活動に携わる方々は、自らが独占禁止法に抵触する行為をすることのないよう注意する必要があると同時に、独占禁止法違反行為をする他の事業者に対抗するための武器としても、独占禁止法の知識を身に着けておくことが必要です。

2. 独占禁止法の制定の経緯
「独占禁止法」という法律の名称は、お聞きになったことのある方が多いと思います。
この法律の正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)といいますが、この正式名称が使われることはほとんどありません。それは、この正式名称は、長すぎるし、法律全体の内容を適切に要約してもいないからだと思います。
独占禁止法は、昭和22年4月14日に公布されました。「公布」とは、新しく制定されたり改正された法令を国民一般に知らせることです。公布は、「官報」という政府の刊行物に掲載することによって行われます。
ちなみに、「公布」とは別に、「施行」という言葉があります。これは、法令の効力を現実に発生させることです。公布と施行との間には、ある程度の間隔を設けるのが普通です。国民に対する周知期間を設けるのが妥当であるからです。
独占禁止法の主要な規定は、昭和22年7月20日から施行されました。公布と施行との間に約3か月余りの間隔があったことになります。
独占禁止法が公布された「昭和22年4月14日」と言えば、現行の日本国憲法が施行された日(昭和22年5月3日)の直前です。すなわち、独占禁止法は、日本国憲法の下で制定されたのではなく、旧憲法、すなわち大日本帝国憲法の下で帝国議会によって制定されたことになります。
独占禁止法が帝国議会で審議された当時は、新憲法の施行が直後に迫る中で、新しく制定する必要のある法律がたくさんあった時期です。このため、あまり関係のない複数の法律を何本もまとめて審議が行われました。
複数の法律をまとめて一括審議することは現在でもよくありますが、現在は、相互に関係のある複数の法律を一括審議するのが普通です。最近話題になったものとしては、一般の国家公務員の定年延長のための国家公務員法改正法等と、検察官の定年延長のための検察庁法改正法とが一括審議されましたが、準司法的な職務を行う検察官の定年延長に政治家が関与するのはおかしいという批判が強まり、この一括法は廃案になりました。
独占禁止法の審議は、他の法律と一括して行われたのですが、帝国議会での法律案審議が大変立て込んでいたために、あまり十分な時間をかけずに行われました。

3. 独占禁止法制定の理由
独占禁止法の内容については、これから追々説明していきますが、一言でいえば、市場における競争を制限する行為を規制することを内容としています。
なぜ、戦後早い時期である昭和22年に、独占禁止法は制定されたのでしょうか。
戦前・戦中の日本には、独占禁止法のように、競争制限的行為を規制する法律は存在していませんでした。この点、民法、商法、刑法などの基本的な法律が明治時代に制定されたのとは、大きく異なっています。戦前においては、企業を競争にさらすことは非効率であると考えられていたようです。
それが一転して、独占禁止法が制定されたのは、戦争に敗北した日本を占領していた米国を中心とする連合国の強い意思によるものでした。
当時の連合国の占領政策は、企業の競争を活発化させることによって日本経済の復興を図ろうということでは全くなく、日本の軍国主義の再興を防止しようとすることに重点がありました。連合国は、日本の軍国主義の背景には、財閥や大地主などの非民主的で独占的な経済構造があったと考えました。そして、国民がごく一部の富裕層と極めて多数の貧困層とに分断され、中間層が少なく国内市場が貧弱であったため、海外に市場を求めて、財閥等が軍部と結託して海外を侵略したというのが、連合国が描いた戦争原因の構図でした。それゆえ、連合国は、日本の軍国主義の再興を防止するには、日本経済の民主化を図ることが必要であると考えたのです。そのために、「経済民主化政策」という一連の政策が、連合国によって採用されました。この経済民主化政策には、労働者の団結・地位の向上、農地改革と並んで、財閥解体や独占禁止法の制定などが含まれていたのです。
このように、占領期に連合国、とりわけ米国の強い影響力の下に制定されたという点において、独占禁止法には、日本国憲法とよく似た制定経緯があります。

次回以降には、独占禁止法の内容の説明に入っていきたいと思います。

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