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<15 懲戒処分を行う場合の弁明の機会の付与手続等の要否について> プロシード法律事務所代表弁護士の佐藤竜一...
- 2023.10.01
独占禁止法について〔その18〕
今回は、国際取引に関する規制について、ご説明いたします。
Ⅳ 国際取引に対する規制
企業の経済活動は、国内にとどまらず、貿易や直接投資等を通じて、国境を越えて展開しています。取り分け、近年、経済がますますグローバル化(globalization)し、企業活動はその国際的な展開の度合を一層顕著なものとしつつあります。
このように企業活動の国際的展開が活発化してくると、国際的な規模で競争を損なう行為が行われるおそれが強くなってきます。それゆえ、独占禁止政策は、単に国内で行われる競争制限的行為のみを対象とするのではなく、国際的な企業活動をも視野に入れて推進する必要性が従来以上に高くなってきています。
独占禁止法は、6条に国際的協定・契約を規制する規定を置き、また、8条2号に事業者団体が行う国際的協定・契約を規制する規定を置いています。
本節においては、まず、以下の2.で、国際関係と独占禁止法に関して一般的な検討を行った後、3.で、6条の解釈を中心として国際取引に対する規制の内容について説明することとします。
(1) 独占禁止法の域外適用
(ア) 国内法の域外適用
国際的な企業活動に対して、独占禁止法はどのように適用されるのでしょうか。
一般に、ある国の法をある人の行為ないしある事項(以下単に「行為」という)に対して適用する権限を国家管轄権といいます。法の適用は、その国の主権に関わる問題ですから、その国の領域内における行為に対して国家管轄権を及ぼすことには何の問題もありません。
ところで、企業や個人の活動範囲が国境を越えて活発化するようになってくると、厳密には、ある国の領域内においてのみ完結するわけではない行為に対しても、その国の国内法を適用する必要があるのではないかということが問題となってきます [1]。
ある国の国家管轄権をその国の領域外の行為に対して及ぼすことを域外適用といいます。
域外適用を無原則に認めるとすれば、国家相互の主権が衝突することとなり混乱が生ずるおそれがありますから、域外適用には一定のルールが必要となります。
国家管轄権は、一般に、立法管轄権と強制管轄権とに分けられます。立法管轄権(実体上の域外管轄権、規律管轄権などともいわれます)とは、国内法をある行為に対して単に観念的に適用することができる権限をいいます。しかし、法の適用の実効性を確保するためには、法を行政上又は司法上具体的に適用することができる必要があります。強制管轄権(手続管轄権、手続上の域外管轄権などともいわれます)とは、立法管轄権が及ぶ行為に対して、その国内法を強制的に適用することができる権限をいいます。強制管轄権は、更に、行政機関が強制調査等の物理的な強制力を伴う措置により国内法を執行する執行管轄権と、裁判所が国内法を適用して裁判を行いそれを執行する司法管轄権とに分けることができます。
そして、これらの管轄権が及ぶ範囲については、国際法上次のように解されています。
(a) 執行管轄権については、自国の領域外で行使することは外国の主権を侵害することから許されない。
(b) 立法管轄権と司法管轄権については、自国の領域外の行為に対して行使するかどうかは各国の自由裁量に委ねられる。
この一般的な考え方は、我が国の独占禁止法の域外適用についても同様に適用されます。
(イ) 独占禁止法の立法管轄権
それでは、まず、独占禁止法の立法管轄権についてはどのように解するべきでしょうか。
一般に、国内法はその国の領域内における行為に限って適用されるとする立場を属地主義といいます。
もっとも、現代においては、属地主義は若干拡大する傾向にあるとされており、その国の領域内で行為の全てが行われたわけでなく、その一部のみが行われた場合であっても国内法は適用されるとする客観的属地主義が認められる方向にあるとされています。
更に進んで、行為が全て自国の領域外で行われても、その行為の効果(独占禁止法の場合にあっては、競争が損なわれるという効果)が自国の領域内に及ぶ場合においては、国内法は適用されるとする効果主義と呼ばれる立場があります。
独占禁止法の域外適用の問題に関しては、学説上、効果主義に賛成ないし好意的な見解が有力となっています [2] [3]。
(ウ) 独占禁止法の強制管轄権
立法管轄権について効果主義を採れば、我が国の競争秩序に影響を及ぼすものである限り、独占禁止法を適用することが可能となります。しかしながら、立法管轄権が拡大しても、強制管轄権が及ばない限り、実際上、独占禁止法の域外適用は困難です。
強制管轄権については、外国事業者が、支店、営業所など実質的支配の下にある拠点を日本国内に有し、それを通じて事業活動を行っている場合には、当該外国事業者に対する強制管轄権が一般に肯定されるものと解されています。
外国事業者が上記のような拠点を日本国内に有しない場合、特に問題となるのは、外国事業者に対する送達の可否です。送達とは、行政機関(又は裁判所)が、一定の書類を法律の定める方法により相手方に送付することをいいます [4]。送達については、法律の定める方法により行われなければ、手続に瑕疵が生ずることとなります。
平成14年の独占禁止法改正前においては、公取委が行う送達として、民事訴訟法108条(外国における送達)の規定が準用されておらず(旧69条の2)、また、公示送達 [5] に係る規定が設けられていなかったため、日本国内に実質的支配の下にある拠点を有しない外国事業者に対する強制管轄権を行使する上で支障がありました。
そこで、平成14年の独占禁止法改正により、69条の3で上記の民事訴訟法108条の規定を準用するとともに、公示送達に関する規定として69条の4が設けられました [6]。
これにより、日本国内に実質的支配の下にある拠点を有しない外国事業者に対する送達についても、公取委がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使若しくは領事に嘱託してされることとなりました。もっとも、書類の送達が、相手方に対して、金銭の支払義務、出頭義務等の命令的・強制的効果を発生させるものである場合には、このような送達は主権の行使に該当するため、外国事業者に対するかかる書類の送達をするには当該外国の同意が必要であるとされています。
このような外国事業者に対する送達ができない場合には、公示送達を行うこととなります(70条の8) [7]。
(2) 独占禁止法の執行に関する国際的協力
国際的な競争制限的行為に対しては、(1)に述べたように域外適用により我が国独占禁止法上の規制を及ぼすことが考えられますが、それのみでは、外国の主権との衝突を完全に回避することは難しいと言わなければなりません。また、国際的な事案に積極的に取組むためには、外国から有益な情報や証拠を収集することが是非とも必要です。
そこで、近年、国際的に、独占禁止法の執行についての協力関係の構築が進展しつつあります。
我が国も、このような協力関係の構築のため、次のような協力協定を外国との間に締結しています。
(a)「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米独占禁止協力協定。平成11年10年7日)
(b)「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」(日EC独占禁止協力協定。平成15年7月10日)
(c)「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定」(日加独占禁止協力協定。平成17年9月6日)
(1) 総説
事業者は、不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約をすることを禁止されています(6条。なお、事業者団体に対する規制として、8条2号)。
国際的協定又は国際的契約(以下単に「国際契約」といいます)とは、国内事業者と外国事業者との間において締結される契約をいいます。
6条の規定への違反に対する措置としては、排除措置命令(7条)、課徴金納付命令(7条の2第1項) [10] があります。
(2) 6条の存在意義
6条については、その存在意義に関して議論があります。
すなわち、独占禁止法の立法管轄権について前述(2.(1)(ア))したような有力な見解によれば、独占禁止法の規定は原則として域外適用が可能なのですから、殊更に国際契約を対象とした6条のような規定を置かなくても、3条後段(不当な取引制限の禁止)や19条(不公正な取引方法の禁止)の規定を直接に適用すれば足りるように思われるからです。
6条の存在意義に関しては種々の学説がありますが、現在、6条には正当な存在意義は見出し難いという見解が有力になってきています。
(3) 具体例
勧告審決昭和45年1月12日審決集16巻134頁(天野・ノボ事件)は、不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際契約に関する事件です。本件においては、天野製薬株式会社がデンマークのノボ・インダストリー株式会社から「アルカラーゼ」と称するアルカリ性バクテリア蛋白分解酵素を購入する国際契約を締結したところ、同契約には、(a)契約終了後3年間、天野は、アルカラーゼと競合する工業用アルカリ性バクテリア蛋白分解酵素を製造又は販売しないこと、(b)契約終了後、天野は、アルカラーゼと競合するバクテリアの他の系統のアルカリ性蛋白分解酵素を取扱わないこと、を規定していたことについて、天野製薬が昭和28年一般指定7号(排他条件付取引。現平成21年一般指定11項)・8号(拘束条件付取引。現平成21年一般指定12項)に該当する事項を内容とする国際契約を締結したものとして、6条に違反するものとされました。
なお、近年、国際契約に基づくカルテルについて、6条を適用して我が国の事業者のみを違反事業者とするのではなく、不当な取引制限として3条を適用し、我が国の事業者のみならず外国の事業者をも違反事業者として取扱う事案が現れてきています。次の事件はそのような事案です。
排除措置命令平成20年2月20日審決集54巻512頁(マリンホース国際カルテル事件)は、マリンホース(タンカーと石油備蓄基地施設等との間の送油に用いられるゴム製ホース)の製造販売業を営む株式会社ブリヂストン等8社(日本2社、英国1社、フランス1社、イタリア3社、米国1社)が、マリンホースの受注価格の低落防止を図るため、(a)我が国、英国、フランス及びイタリアの4か国をマリンホースの使用地とする場合には、使用地となる国に本店を置く者を受注予定者とし、複数の事業者がこれに該当する場合にはそのうちいずれかの者を受注予定者とすること、(b)上記4か国以外を使用地とする場合には、予め各社が受注すべきマリンホースの割合を定め、当該割合等を勘案して、コーディネーターと称する第三者が選定する者を受注予定者とすること、(c)受注すべき価格は受注予定者が定め、それ以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力すること、という合意の下にその合意内容を実施していた事案です。公取委は、マリンホースのうち我が国に所在するマリンホースの需要者が発注するものの取引分野における競争を実質的に制限したものであって不当な取引制限に該当するものとして、8社のうち事業を他社に承継させたり既に消滅している事業者等を除く5社(日本1社、英国1社、フランス1社、イタリア2社)に対して排除措置命令を行いました。
このような近年の公取委の運用は、前述のように平成14年の独占禁止法改正によって、外国における送達等に係る規定の整備により可能となったことによるものであると考えられます。また、このような運用は、独占禁止法の立法管轄権についての公取委の立場が効果主義を採用するに至ったことを示すものであるとする見解があります。
国際契約に基づく事業者の行為について、今後とも6条ではなく3条又は19条が適用されるようになっていけば、6条の存在意義は一層不明瞭なものとなっていくものと思われます。
[1] 例えば、独占禁止法についてこのような問題が生じてくる場合としては、(a)日本企業と外国企業とが、ある商品について、日本を含む市場において価格カルテルや数量カルテルを形成する場合、(b)外国企業が、日本に輸出する商品について、日本の輸入業者によるその商品の販売価格を拘束する場合(再販売価格の拘束)、(c)同一の業種に属し競争関係にある日本企業と外国企業とが合併する場合、等が考えられます。
[2] 公取委の運用においては、審決において明確に効果主義の採用が明示されたことはないとされています。勧告審決平成10年9月3日審決集45巻148頁(ノーディオン事件)は、外国事業者による日本事業者に対する私的独占事件ですが、違法な契約の締結、違法な行為の実施が日本国内で行われており、属地主義ないし客観的属地主義の立場からも説明のつく事案です。
[3] ところで、独占禁止法の平成10年改正により、市場集中規制に関する規定については、国外における企業結合行為についても独占禁止法による規制が可能となりました。また、独占禁止法上の他の規制についても、効果主義が採用されていると解する見解もあります。
[4] 独占禁止法上、送達すべき文書としては、排除措置命令書の謄本(61条2項)、課徴金納付命令書の謄本(62条2項)、独占的状態に係る審判開始決定書の謄本(64条3項)の他、公正取引委員会規則で定めるもの(70条の6)があります。
[5] 行政庁(又は裁判所)が相手方を知ることができず、又はその所在が不分明であるときに、一定の掲示場における掲示その他の方法をもってする公示による送達。民事訴訟においては民事訴訟法110条以下に規定があります。なお、公示送達は、外国事業者に限らず、国内事業者に対しても適用される制度です。
[6] なお、その後の独占禁止法改正により、これらの条文の番号が移動し、69条の3は70条の7に、また、69条の4は70条の8になっています。
[7] 鉄鉱石・石炭等の採掘・販売の事業を行う豪英系のBHPビリトンが行おうとした同業の英豪系のリオ・ティントの株式取得について、両社が公取委の調査に協力しなかったため、公取委は、豪州政府の同意を得た上、当時の独占禁止法70条の17・民事訴訟法108条に基づき、報告命令書を領事により送達しましたが、受領を拒否されました。このため、公取委は、当時の独占禁止法70条の18に基づき、同命令書の公示送達を行いました。なお、その後、BHPビリトンは本件株式取得を撤回したため、公取委は審査を打ち切りました(平成20年12月3日公取委報道発表資料)。
[8] これらの協定に規定されている事項には次のようなものがあります。(ア)自国の執行活動についての通報(各締約国の競争当局は、他方の締約国の重要な利益に影響を及ぼすことがあると認める自己の執行活動について、他方の締約国の競争当局に通報する)。(イ)他国の執行活動についての支援(各締約国の競争当局は、自己の法令及び重要な利益に合致する限りにおいて、かつ、自己の合理的に利用可能な資源の範囲内で、他方の締約国の競争当局に対しその執行活動について支援を提供する)。(ウ)執行活動の調整(各締約国の競争当局は、関連する事案に関して執行活動を行おうとする場合には、その執行活動の調整を検討する)。(エ)他国の執行活動の要請(各締約国の競争当局は、他方の締約国の領域において行われた反競争的行為が自己の重要な利益に悪影響を及ぼすと信ずる場合には、他方の締約国の競争当局に対して適切な執行活動を開始するよう要請することができる)。(オ)他国政府の重要な利益に対する考慮(各締約国は、執行活動のあらゆる局面において他方の締約国の重要な利益に慎重な考慮を払う)。
[9] なお、二国間の経済連携協定において、これらと類似の規定が設けられることがあります。我が国とシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ等との協定にそのような例があります。
[10] 不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際契約で、(ア)商品・役務の対価に係るもの、又は、(イ)商品・役務について、供給量又は購入量、市場占有率、取引の相手方のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものについて命じられます。
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