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ブログ|プロシード法律事務所

  • 2020.12.02

独占禁止法について(その5)

前回は、私的独占について説明しました。

今回からは、不当な取引制限について、説明していきます。

不当な取引制限は論ずることが多いので、複数回に及ぶと思います。

 

独占禁止法について〔その5〕

 

  1. はじめに

(1) 不当な取引制限の位置付け

不当な取引制限とは、一言で言えば、複数の事業者が共同して相互にその事業活動を拘束することによる競争制限的行為です。不当な取引制限に該当する事業者間の共同行為をカルテルともいいます。

そもそも、「競争」とは、事業者が、ある商品・役務の供給又は需要に関して、取引相手を獲得するために、他の事業者と競い合う過程を意味します。ところが、不当な取引制限は、複数の事業者が共同して相互にその事業活動を拘束する行為ですから、ある取引条件について、他の事業者と競い合うことをやめて協調することとなり、競争を否定することとなります。

私的独占の箇所で述べたように、私的独占と不当な取引制限が、独占禁止法上の違反行為の中でも、最も重要で基本的なものとされています。それは、これらの行為によって生ずる競争の実質的制限は、独占禁止法違反行為の中で、公正かつ自由な競争という独占禁止法の目的を最も大きく侵害するものであるからです。

 

(2) 不当な取引制限の適用事例の多さ・多様性

私的独占の箇所の末尾で述べたように、これまでに、私的独占の成立が認められた事件はごく少数にとどまっているのに対し、不当な取引制限の成立が認められた事件は多数に上っています。2015年度(平成27年度)から2019年度(令和元年度)までの5年間において、公正取引委員会によって法的措置が取られた事件の数は、私的独占が1件であるのに対し、不当な取引制限は43件に上っています。ちなみに、私的独占、不当な取引制限と並んで、独占禁止法違反行為の三本柱の一つとされる不公正な取引方法の成立が認められた事件は、7件です(令和元年度公正取引委員会年次報告による)。

不当な取引制限の具体的な態様は、多岐にわたっています。中でも、価格カルテル、入札談合が最も代表的なものです。価格カルテルとは、文字通り、複数事業者が共同して商品・役務の価格を決定する行為です。入札談合とは、官公庁等が行う入札に参加する事業者が、落札予定者を誰にするかを予め合意し、他の入札参加者は、その者が落札できるように協力する行為です。

このようにみてくると、これらの共同行為が違法行為であることには問題はないと考えられると思います。確かに、これらの共同行為は原則として違法行為とされるのですが、外形的にこれらの共同行為に該当しても、違法とはすべきではないと考えられる場合もあります。この点については、2.(4)で後述します。

 

  1. 不当な取引制限の要件

(1) 不当な取引制限の定義

私的独占の箇所でも述べましたが、独占禁止法上、不当な取引制限は、次のように定義されています。

 

〔不当な取引制限〕

2条6項

この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

 

この定義から例示の部分を除外すれば、次のとおりです。

不当な取引制限

(a) 事業者が、

(b) 他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、(c) 公共の利益に反して、

(d) 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

 

これらのうち、(a)、(c)及び(d)は、私的独占と全く同じです。

(a)については、私的独占について述べたことに附け加えることはありません。

以下においては、まず、不当な取引制限の行為の要件である(b)についてやや詳しく説明します。次いで、まず、(d)について、「一定の取引分野」と「競争の実質的制限」とに分けて附加的な説明をします。(c)については、特に論ずべき問題が多いため、最後にやや詳しく説明いたします。

 

(2) 共同行為としての相互拘束・遂行

(ア) 行為の共同性(合意の存在)

不当な取引制限は、事業者が他の事業者と共同して行う行為です。

ある行為が他の者と「共同して」行うものであるためには、その行為を行うについて、主体となる複数の事業者の間に合意が存在することが必要となります。この合意は、意思の連絡とも言われます。

合意とは主観的なものであり、またその内容、形式、拘束力の程度等は多様であって、複数の事業者間においてどのような関係がある場合に、合意が認められることとなるのかはやや微妙です。とりわけ、事業者間の合意によって事業活動を拘束する行為が独占禁止法に違反することとなることは社会的に広く知られていますから、このような合意が公然となされることはまず考えられません。

不当な取引制限の要件を満たす合意は、文書化されていることが必要ではないのみならず、発言その他の形で明示されたものでなくてもよく、黙示的なものでも足りるとされています。また、合意は、事業者(会社等)の中のどのレベルの者(自然人)によってなされたかにかかわらず、事実上、その事業者としての意思決定に影響を及ぼし得る者によってなされたものであれば足りると解されています。

以下には、黙示の合意による不当な取引制限を認めた判例として、東京高判平成7年9月25日判タ906号136頁(東芝ケミカル事件)を掲げておきます。

〔事実関係〕

本件においては、紙基材フェノール樹脂銅張積層板の製造販売業を営む東芝ケミカル株式会社と、同製品又はこれと同等の製品である紙基材ポリエステル樹脂銅張積層板の製造販売業を営む日立化成工業株式会社等7社(以下、東芝ケミカルとこの7社を合わせて「8社」という)とによる価格カルテルの成否が問題となった。

8社は、合成樹脂工業協会に加入しており、その品目別部会の一つで各社の担当役員級の者で構成されている積層板部会(以下「部会」という)に所属している。本件商品の市場の状況から、8社は、本件商品の価格の引上げを強く必要としていた。そこで、8社は、部会等の場で、本件商品を含むプリント配線板用銅張積層板の販売価格の下落防止、その引上げ等について意見交換、情報交換を行ってきた。ある日、臨時部会において、プリント配線板用銅張積層板の国内需要者渡し価格の引上げについて意見交換を行い、大手3社から本件商品の価格引上げが表明された。残る5社(東芝ケミカルを含む)については、大手3社から追随して値上げを実施するように要請されたが、これに対し各社から反対の意見が出なかった。

公取委は、8社の行為は不当な取引制限に該当するものとして排除措置を命ずる審決をした。これに対して、東芝ケミカルは取消しを求める訴えを提起した。

〔判 旨〕 請求棄却

「「不当な取引制限」(中略)にいう「共同して」に該当するというためには、複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解される。しかし、ここにいう「意思の連絡」とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみでは足りないが、事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である(黙示による「意思の連絡」といわれるのがこれに当たる。)。もともと「不当な取引制限」とされるような合意については、これを外部に明らかになるような形で形成することは避けようとの配慮が働くのがむしろ通常であり、外部的にも明らかな形による合意が認められなければならないと解すると、法の規制を容易に潜脱することを許す結果になるのは見易い道理であるから、このような解釈では実情に対応し得ないことは明らかである。」(下線は岩本)

  • 相互拘束・遂行
  • 相互拘束の意味

不当な取引制限は、他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束する行為です。

ここにいう事業活動の「相互拘束」とは、複数の事業者が相互にそれぞれの事業活動の内容について一定の制限を課することを意味します。

もっとも、相互拘束は、「相互に……一定の制限を課する」といっても、緩やかに解釈されており、何らかの拘束力を持った合意に基づくものである必要はなく、合意された一定の制限について、他の事業者も遵守するであろうとの期待の下に、自己も遵守しようという、いわゆる「紳士協定」に基づくもので足りるとするのが通説です。これは、結局、上記(ア)に述べた合意があれば、直ちに相互拘束性が認められるとする解釈が採られていることとなります。

公取委の審決例は、共同行為の合意の存在が認定できれば、直ちに相互拘束性の要件は充足するとする見解を、ほぼ一貫して採用しています(例えば、審判審決昭和30年12月1日審決集7巻70頁(大口需要者向け石油製品入札談合事件))。判例(最判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁(石油価格カルテル刑事事件))も、同様の見解を採っています。

  • 縦のカルテルは不当な取引制限となるか

さて、ここで一つの問題が生じます。

それは、不当な取引制限には、横のカルテルの他に、縦のカルテルを含むかという問題です。

不当な取引制限として、これまでの記述において暗黙のうちに念頭においてきたものは、競争関係にある同業者によるカルテルであり、その内容は、複数の事業者が同一の事業活動(例えば、商品の価格決定)を相互に拘束するものでした。これを「横のカルテル」ということとしましょう。

これに対して、競争関係にはない(=同業者同士ではない)複数の事業者が、相互に事業活動を拘束する場合があります。これを「縦のカルテル」と呼ぶこととしましょう。例えば、(ア)電機メーカーAと大手量販店Bとの間で、Aは生産したパソコンの全てを受入れて販売する権利をBに与える(一手受入権の付与)とともに、Bはパソコンに関してはAが供給する商品のみを取扱う(一手供給権の付与)こととすること、(イ)自動車メーカーCが、自社の自動車の販売をする全てのディーラー(D、E、F、……Z)との間で、Cは新型車について各ディーラーに同一の価格で卸し、各ディーラーはその価格に一定のマージンを上乗せした同一の価格で消費者に販売することとすること、などです。

この縦のカルテルも、横のカルテルと同様に、不当な取引制限に該当し得るでしょうか。

公取委は、独占禁止法施行当初は、縦のカルテルも不当な取引制限に該当し得るとする解釈を採っていました。

しかしながら、東京高判昭和28年3月9日高民集6巻9号435頁(新聞販路協定事件)は、縦のカルテルの共同行為への該当性を否定し、それまでの公取委の運用を覆しました。この事件は、新聞社5社と東京都内の新聞紙販売業者22名が、各新聞販売店の販売地域を定めたことを違法な共同行為とした公取委の審決について、5新聞社に対する部分を取り消したものです。判決は、「ここにいう事業者とは法律の規定の文言の上ではなんらの限定はないけれども、相互に競争関係にある独立の事業者と解するのを相当とする。共同行為はかかる事業者が共同して相互に一定の制限を課し、その自由な事業活動を拘束するところに成立するものであつて、その各当事者に一定の事業活動の制限を共通に設定することを本質とするものである。」と判示しました。

この判決により、縦のカルテルは不当な取引制限に該当しないものとされた(縦のカルテル否定説)ため、公取委のその後の運用においては、これと同様の解釈が採られてきました。また、学説においても、この判決と同旨の立場に立つ見解が通説でした。

しかしながら、縦のカルテル否定説に対する批判が近年強くなってきています。

もともと、縦のカルテル否定説は、その根拠が明確なものではありませんでした。

その後、公取委は、ガイドライン(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(「流通・取引慣行ガイドライン」。平成3年7月11日)第2部第2‐3)においては、縦のカルテルの不当な取引制限への該当性を認めることとなる記述を設けるに至っています。すなわち、「共同ボイコット」について、「競争者との共同ボイコット」「事業者団体による共同ボイコット」と並んで、「取引先事業者等との共同ボイコット」という類型を掲げた上、「これによって取引を拒絶される事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合」には不当な取引制限に該当し得るとしています。このガイドラインにおいては、取引先事業者等との共同ボイコットの例として、「複数の流通業者と複数のメーカーとが共同して,安売りをする流通業者を排除するために,メーカーは安売り業者に対する商品の供給を拒絶し,又は制限し,流通業者は安売り業者に対し商品を供給するメーカーの商品の取扱いを拒絶する」行為を挙げています。

以上のように、縦のカルテルの不当な取引制限への該当性に関する実務の動向は、新聞販路協定事件の判例が排斥されたわけではないものの、全面的な否定説を脱し、少なくとも部分的には肯定する立場に移行してきているものと考えられます。

近年有力になりつつある縦のカルテル肯定説がその根拠として挙げるのは、(ⅰ)2条6項の不当な取引制限の定義の文言は、縦のカルテルを除外するものとはなっていないこと、(ⅱ)我が国の不当な取引制限に対する規制の母法である米国シャーマン法1条(取引制限の禁止)の適用においては、縦のカルテルも横のカルテルと同様に規制の対象とされていること、などです。

私自身は、縦のカルテル肯定説に賛成しています。

(c) 遂行の要件

さて、ここまでは相互拘束の要件について検討してきましたが、不当な取引制限の要件として、相互拘束と並んで規定されている事業活動の「遂行」とはどのような意味を持つのでしょうか。

遂行の要件に関して学説上議論となっているのは、遂行の要件は、相互拘束の要件と別個独立のものなのか、あるいは、相互拘束の要件に従属するものなのか、という問題です。以下においては、別個独立のものと解する見解を独立要件説、従属するものと解する見解を従属要件説と呼ぶこととします。

これらのうち、学説上は、独立要件説を採る少数説もありますが、従属要件説が通説です。通説は、遂行の要件は、相互拘束の要件を補完して、紳士協定のようなものも把握し得るように、従属的に附加されたものと解すべきであると解しています。

判例は従属要件説を採っており(東京高判昭和28年3月9日高民集6巻9号435頁(新聞販路協定事件)、東京高判昭和28年12月7日高民集6巻13号868頁(東宝・新東宝事件))、公取委もそれと同様の解釈を採っているようです。

 

 

今回は、不当な取引制限の要件のうちの共同行為としての相互拘束・遂行までを説明しました。

次回は、残る要件である「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と「公共の利益に反して」についての説明から始めます。

 

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