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  • 2021.09.22

独占禁止法について〔その12〕

独占禁止法について〔その12〕

 

独占禁止法違反行為の一つである不公正な取引方法について、ご説明しています。

前回の「不当な顧客誘引・取引強制」に続いて、今回は、「拘束条件付取引」という範疇の行為に関し、「序説」、「排他的条件付取引」及び「再販売価格の拘束」について、ご説明いたします。「拘束条件付取引」という範疇には、もう一つ「(狭義の)拘束条件付取引」がありますが、これについては、次回に回します。

 

  1. 拘束条件付取引

(1) 序説
平成21年独占禁止法改正前には、同法旧2条9項4号(「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること」)を受けて、昭和57年一般指定11項から13項までに拘束条件付取引に係る具体的な行為類型が規定されていました。これら三つの具体的な行為類型については、平成21年独占禁止法改正後は、同指定12項に規定されていた再販売価格の拘束が法定化されて独占禁止法2条9項4号となり、同指定11項、13項に規定されていた排他条件付取引、(狭義の)拘束条件付取引が平成21年一般指定のそれぞれ11項、12項に規定されました。同指定11項・12項の法律上の根拠規定は独占禁止法2条9項6号ニです。

(ア) 広義の拘束条件付取引
事業者は、相手方との間に取引を成立させることにより、商品・役務の供給又は需要に関し種々の義務を負うこととなります。これは、取引関係が契約――通常は、当事者が相互に債務を負う双務契約――で形成されることから当然のことであり、このこと自体が独占禁止法上問題となることは原則としてありません。
ところで、取引関係に立つ各事業者は、当該取引の本体と関係のない事業活動については自由であるはずであり、取引関係の相手方から介入を受ける必要はないはずです。
しかしながら、取引関係に立つ両当事者の間には多かれ少なかれ経済的な力関係の格差があることが多いことから、より優位にある者が自己の利益を図るために当該取引の本体と関係のない相手方の事業活動に拘束を加えようとすることが少なくありません。例えば、商品を供給する事業者は、相手方に対し、(a)当該商品と同種の商品について、自己と競争関係にある他の事業者から供給を受けず、専ら自己のみから供給を受けること、(b)当該商品を再販売する際の価格を一定額以上とすること、(c)当該商品の再販売先を特定の事業者に制限すること、等の拘束を加えることがあります。

これらのように、取引本体に付随して相手方の事業活動を拘束する条件を広義の拘束条件と呼ぶこととします。平成21年改正前の独占禁止法旧2条9項4号が規定していたのは、広義の拘束条件付取引でした。広義の拘束条件付取引には多様な種類がありますが、平成21年一般指定11項(排他条件付取引)は上記の(a)のような行為を、独占禁止法2条9項4号(再販売価格の拘束)は主に(b)のような行為を対象としています。また、同指定12項((狭義の) 拘束条件付取引)は、広義の拘束条件付取引のうち独占禁止法2条9項4号及び同指定11項が規定する行為類型以外のものを対象としており、例えば上記の(c)のような行為が対象として含まれ得ます。

(イ) 公正競争阻害性
広義の拘束条件付取引の公正競争阻害性の内容について、通説は、自由競争の減殺であると説明しています。
取引において拘束条件を附することは、相手方の事業活動の自由を少なくともある程度は制限することを意味しす。しかしながら、そうであるからと言って、拘束条件を附することを全て公正競争阻害性があるものとして違反行為と取扱うのは妥当ではありません。

なぜならば、(ア)に述べたように、取引関係に立つ両当事者間に経済的な力関係の格差があることは通常のことであるところ、軽微な拘束条件を逐一違反とするのは過剰な規制となり、却って自由にして活発な経済活動を萎縮させるおそれがあるからです。また、後述のように、ある種の拘束条件については、却って競争を促進することとなるという主張もされています。それゆえ、拘束条件を附けられた取引が、公正競争阻害性の要件を充足し違反となるかどうかは、一律に断ずることはできず、個々具体的な行為ごとに慎重に検討していく必要があります[1]

 

(2) 排他条件付取引

(ア) 行為類型
広義の拘束条件付取引に係る具体的な行為類型の一つとして、平成21年一般指定は、排他条件付取引(11項)を規定しています。
排他条件付取引は、(a)相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引することであり、それにより、(b)競争者の取引の機会を減少させるおそれがあることという結果が生ずることが要件とされています。このうち、(b)については、「不当に」という評価的要件とともに、次の(イ)で述べることとし、ここでは、(a)についてのみ取上げます。

排他条件付取引の上記(a)には、次の三つの態様があります。

(ⅰ) 排他的供給取引
商品・役務を供給するに当たり、相手方に対し、他の事業者から同種の商品・役務の供給を受けないことを条件として取引することをいいます。一手供給契約ともいいます。排他的供給契約の典型的なものは、専売店制です。専売店制は、生産業者その他の流通経路の中核となる特定の事業者が、川下の販売業者に対し他の事業者からの商品の供給受入を禁止することにより、それら販売業者を自己の傘下に置く制度です。

(ⅱ) 排他的受入取引
商品・役務の供給を受けるに当たり、相手方に対し、同種の商品・役務を他の事業者に供給しないことを条件として取引することをいいます。一手受入契約ともいいます。

(ⅲ) 相互排他条件付取引
商品・役務の供給に関する取引の両当事者間において、供給者は同種の商品・役務を他の事業者に供給せず、需要者は他の事業者から同種の商品・役務の供給を受けないことを条件として取引することをいいます。例えば、供給者が、相手方に一定の地域における一手受入権を与えるとともに、専売店とするような場合がこれに該当します。

(イ) 公正競争阻害性
排他条件付取引を規定した平成21年一般指定11項には、「不当に」という評価的要件が用いられています。これは、原則として違法となるのではなく、個別に公正競争阻害性が備わってはじめて違法となることを示すものです。
ところで、同項には、「不当に」の他に、「競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること」という要件が設けられています。
この要件は、いかなる意義を持つのでしょうか。
通説は、この要件が満たされる場合に、排他条件付取引の公正競争阻害性が認められることとなると解しています。前述のように、通説は広義の拘束条件付取引の公正競争阻害性の内容を自由競争の減殺と解しているのですが、具体的に排他条件付取引については、競争者の自由競争が減殺されることが公正競争阻害性の内容であるというのが通説の解釈です。

思うに、排他条件付取引は直接的には相手方を標的とする行為ですが、それはあくまで手段に過ぎず、行為者にとっての実質的・究極的な狙いは、競争者の取引機会を減少させその排斥を図ろうとするものであることは明らかです。行為者にとって、競争者の事業活動の自由を侵害することとならなければ、わざわざ排他条件付取引を行う意味がありません。したがって、排他条件付取引の公正競争阻害性の内容について、競争者に着眼する通説の立場は、事柄の本質を的確に把握するものであり妥当であると思われます。

さて、排他条件付取引の公正競争阻害性の内容を以上のように解する場合、そのような要件を充足し得る者は、相手方や競争者に対して、経済的な力関係において優位にある者であることが通常でしょう。
通説及び判審決例においても、公正競争阻害性の要件を充足する排他条件付取引の行為者となるのは、〈有力な事業者〉であると解されています。
この〈有力な事業者〉基準に関する公取委の運用方針は、流通・取引慣行ガイドラインの中で、かなり具体的に明らかにされています[2]

もっとも、有力な事業者による排他条件付取引は、単に公正競争阻害性を持つにとどまらず、相手方を「支配」し、又は、競争者を「排除」することにより、競争の実質的制限を生じさせたものとして私的独占が成立すると解すべき場合もありましょう[3]

(ウ) 具体例
排他条件付取引の成否が問題となった具体的事例を見ておきましょう。
以下の公取委の審決は、〈有力な事業者〉基準に則って、違法性の判断を行ったものとみられます。

勧告審決昭和49年11月22日審決集21巻148頁(武藤工業事件)は、専売店制の事例です。製図機械及びその付属品のメーカーであり、その製図機械の販売量が我が国の製図機械の総販売量の3分の2を占める武藤工業が、取引先の卸売業者及び小売業者に対し、同社製品と競合する他社製品を取扱ってはならない旨の指示を行い、これに反した卸売業者に他社製品の取扱いを中止させたことが、排他条件付取引(昭和28年一般指定7号(現平成21年一般指定11項))に該当するものとされました(この事件においては、再販売価格の拘束(昭和28年一般指定8号(現2条9項4号))の存在も認定されました)[4]

 

(3) 再販売価格の拘束

(ア) 行為類型
(a) 序説
広義の拘束条件付取引に係る具体的な行為類型の一つとして、再販売価格の拘束(独占禁止法2条9項4号)が規定されています。再販売価格の拘束は、再販売価格維持行為とも呼ばれます。

再販売価格とは、商品を供給する者からみて、その者から直接間接に商品を購入した者が自己の取引先に当該商品を販売する際の価格を意味します(独占禁止法23条1項の「再販売価格」の定義を参照)。要するに、転売価格のことです。
再販売価格の拘束は、商品を供給する者が、商品を購入する相手方ないしその相手方から更に商品を購入する事業者が当該商品を販売する際の価格の自由な決定を拘束する条件をつけて、当該商品を供給することです。独占禁止法2条9項4号は、自己の供給する商品を購入する相手方に、次の四つのいずれかの拘束条件をつけて、当該商品を供給することを再販売価格の拘束としています。

(ⅰ) 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること(同号イ前段)。

(ⅱ) (ⅰ)の他、相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること(同号イ後段)。

(ⅲ) 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させること(同号ロ前段)。

(ⅳ) (ⅲ)の他、相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること(同号ロ後段)。

上記(ⅰ)は、相手方の商品販売価格を定めてこれを維持させる行為であり、再販売価格の拘束の最も典型的な行為です。

上記(ⅱ)には、例えば、メーカーが販売業者の販売価格の決定に際し自己の承認を必要とすること、メーカーが販売業者の廉売を抑止するために、販売代金の回収に当たり、本来の代金に加えて販売業者の利益の一部を徴収し、一定期間保管した後にこれを返還すること、などがあります。

上記(ⅲ)及び(ⅳ)は、相手方から当該商品を購入する事業者の販売価格を拘束する行為です。この「事業者」は、相手方から直接商品を購入する事業者に限らず、更に下流の事業者も含まれるものと解されます。

さて、再販売価格の拘束に該当するものとされた例は多数ありますが、ここには、上記の(ⅰ)又は(ⅲ)に該当するものとされた若干の違反事例を紹介しておきます[5]

勧告審決平成12年8月9日審決集47巻305頁(ピエトロ事件)は、生タイプで和風の味付けがされているなどの特色を持つ液状ドレッシングのメーカーが、希望小売価格(後述)を定めていたところ、販路を従来の百貨店向けに加え量販店等に拡大していく計画を実行するに際して小売価格が低下することを懸念し、小売業者に対し希望小売価格での販売を要請するとともに、それを下回る価格で販売した小売業者には供給の全部又は一部を取りやめる等の措置を採ったことが、上記(ⅰ)に該当し不公正な取引方法となるものとされました。

審判審決平成13年8月1日審決集48巻3頁(ソニー・コンピュータエンタテインメント事件)は、プレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機(PSハード)、PSハード用ソフトウェア(PSソフト)等の製造販売等を営む事業者に関する事件です。この事業者は、PSソフトの希望小売価格を設定するとともに、その遵守の要請を受け入れた小売業者及び卸売業者とのみ取引をすることとして、値引き販売をする者に対しては、改めて希望小売価格の遵守を求め、応じない者に対しては「蛇口を閉めることもある」などと述べて出荷制限などの制裁措置に言及し、実際に値引き販売をした家電量販店に対して出荷停止をしたこと等が、上記(ⅰ)(小売業者に対し、希望小売価格を維持させる条件を付けてPSソフトを供給)及び(ⅲ)(卸売業者に対し、同卸売業者をしてその取引先である小売業者に希望小売価格を維持させる条件を付けてPSソフトを供給)に該当し不公正な取引方法となるものとされました。

(b) 拘束の意味
再販売価格の「拘束」とは、再販売価格を維持することが契約上義務付けられている場合に限らず、事実上、それを拒否し難い状況に相手方を置くことで足ります[6]
拘束に該当し得るものとしては、例えば、(ⅰ)メーカーと流通業者間に再販売価格の合意がある場合、(ⅱ)メーカーの示した価格で販売しない場合に経済上の不利益(出荷量の削減、出荷価格の引上げ等)を課す場合、(ⅲ)メーカーの示した価格で販売する場合に経済上の利益(リベートの支給、出荷価格の引下げ等)を供与する場合[7]、(ⅳ)メーカーの示した価格で販売しているかどうかを調べるため、販売価格の報告徴収、店頭でのパトロール、商品に秘密番号を附するなどによる安売業者への流通ルートの解明などを行う場合、があります。

メーカーが販売業者に対し「希望小売価格」を単に参考のために示すにとどまり、その価格で販売するよう何ら拘束するものでない場合には、違反とはなりません。しかし、「メーカー希望小売価格」と称していても、販売業者がその価格での販売を拒否し難い状況に置かれれば、拘束したものとして違反となります。

(c) 委託販売と再販売価格の拘束
メーカーや販売業者が商品の販売を他の事業者に委託する場合(委託販売)があり、その場合、委託者が受託者に販売価格を指示することが再販売価格の拘束になるかどうかという問題があります。

委託販売にも種々の態様があり得ますが、受託者が委託者の指揮監督の下に販売活動をし、その商品の販売による損益計算と危険負担(商品が両当事者の責に帰すべき事由によらずに滅失毀損した場合や売れ残った場合の負担)は委託者に帰し受託者は一定の手数料を得るに過ぎないような場合(真正の委託販売)には、受託者は委託者の手足として活動するに過ぎず、その商品の販売価格の設定について受託者の意思決定の自由は予定されていないから、委託者による販売価格の指示は違法とはならないものと解されます[8]

これに対し、委託販売とはいっても、販売活動上、受託者側に相当程度の裁量が認められ、特に損益計算と危険負担が受託者に帰するような場合には、委託者による販売価格の指示は、受託者の価格決定を拘束したものとして違法となるでしよう[9]

(イ) 公正競争阻害性

(a) 序説
再販売価格の拘束を規定した独占禁止法2条9項4号には、「正当な理由がないのに」という評価的要件が用いられています。これは、原則として公正競争阻害性が認められる行為類型であることを示しています。
再販売価格の拘束の公正競争阻害性の内容は、通説によれば、自由競争の減殺です。具体的には、その商品を取扱う販売業者がその販売価格の自由な決定を拘束されるために、販売業者間の価格競争が消滅するという意味で、自由競争が減殺されることです。

(b) ブランド内競争とブランド間競争
再販売価格の拘束の公正競争阻害性の内容について、上述(a)の通説によれば、再販売価格の拘束の違法性は、特定のブランドを持つ商品について販売業者間で行われる価格競争が消滅する点に求められることとなります[10]
ところで、再販売価格の拘束により価格面のブランド内競争が消滅しても、それによりブランド間競争が増進するという状況が仮に存在するとすれば、市場全体としての価格競争は損なわれることとはならず公正競争阻害性の要件を充足しないこととなるのではないかという問題が、学説及び実務において問題とされています。
この問題について、一部の学説は、再販売価格の拘束はブランド間競争をむしろ活発化することがあるから、その競争促進効果と、ブランド内競争の消滅による競争制限効果との間の比較衡量によって、公正競争阻害性の有無を判断すべきであると主張しています。

しかしながら、学説上は、再販売価格の拘束がブランド間競争を活発化させることはあり得ないとする見解が有力です。その理由は、次のように説明されています。
一般に、あるブランド商品が他のブランド商品との競争にさらされている場合においては、再販売価格を維持することは困難です。したがって、再販売価格の拘束が実効性をもって行われるのは、(ⅰ)その商品の市場においては、もともとブランド間競争が停滞している場合、又は、(ⅱ)当該ブランドの商品について、差別化が進展し、他のブランドの商品との代替関係が減少している場合、などに限られます。そして、これらの場合において、再販売価格の拘束を行うことにより、ブランド間競争が活発化することは考えにくいことです。それゆえ、再販売価格の拘束により価格面のブランド内競争が消滅する場合には、市場全体の競争が損なわれることとなり、公正競争阻害性の充足を認めるのに支障はありません。

(ウ) 違反とならない場合

再販売価格を拘束することが違反とはならない場合はあり得るでしょうか。
違反とはならないのではないかという議論があるものとしては、次のようなものがあります。

第一に、ある事業者が株式の保有、役員の兼任等により他の事業者を支配している関係にある場合に、前者が後者に販売した商品について、再販売価格の拘束を行う場合です。この場合には、後者は前者との関係において独立した事業者としての実質を持たず、前者に対しては事業活動の自由をもともと有していませんから、前者が再販売価格の拘束を行っても公正競争阻害性を充足しないこととなり、違反とはならないものと考えてよいものと思われます。

第二に、商品の流通経路は製造業者→卸売業者→小売業者となっているけれども、小売業者への納入価格は製造業者と小売業者との間の直接の交渉により決定され、卸売業者は単に取次ぎを行っているに過ぎないときに、製造業者が卸売業者の再販売価格の拘束を行う場合です[11]。この場合には、その「卸売業者」は真正の卸売業者ではなく、単に取引の仲介を行い手数料等を取得するだけの存在であるとみられ、再販売価格(=小売業者への納入価格)を自ら決定することに何らの利益も有しませんから、違反とはならないものと考えられます。

第三に、「只乗りの防止」と呼ばれる場合です。ある商品について、顧客に対し丁寧な商品説明をする小売業者Aと、商品説明をしない小売業者Bとがあるとします。十分な商品説明をするためには、そのための従業員を雇用しそれらの者に商品知識を修得させる必要があるから、コストがかかります。したがって、Aにおける価格は、Bにおける価格よりも高くならざるを得ません。そうとすると、合理的に行動する顧客は、Aの店舗で商品説明だけを受け、購入する意思を持ったときは、Bの店舗で商品を購入することとなるでしょう。この場合、Aからみれば、Bは、Aの商品説明という企業努力に「只乗り(フリーライド(free-ride))」していることとなります。顧客が全て上記のような行動を取るとすれば、その商品はBの店舗でしか売れず、Aは存続が困難となります。消費者にとって、商品説明を受けることができることは有用なことですから、それをする小売業者が存在しなくなることは社会的にみて損失となります。そこで、消費者が十分な商品説明を受けることができるように、それをする小売業者における価格と同等の価格を、それをしない小売業者にも強制するため、メーカーが再販売価格の拘束を行うことを認めるべきであるという主張があります。

この問題について、流通・取引慣行ガイドラインは、「事業者が再販売価格の拘束を行った場合に、当該再販売価格の拘束によって(中略)、いわゆる「フリーライダー問題」の解消等を通じ、実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それによって当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、当該競争促進効果が、当該再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合には、「正当な理由」があると認められる。」と述べています(同ガイドライン第1部‐第1‐2‐(2))。

[1] ここで、拘束条件付取引との関係で流通系列化について一言しておきます。流通系列化とは、ある種類の商品の流通経路において、中核となる特定の事業者(多くの場合は生産業者)がその強い経済力を背景に、川下(場合により川上)の各事業者と固定的・安定的な取引関係を構築していることをいいます。流通系列化により、中核となる事業者が他の事業者の事業活動に大きな影響を及ぼすこととなり、その商品に関する事業者間の競争が不活発となったり、新規参入が困難となることがあれば、公正かつ自由な競争を損なうものとして、独占禁止政策上問題が生ずることとなります。広義の拘束条件付取引は、流通系列化の形成・強化のための手段として用いられることが多いのです。その中でも最も頻繁に用いられるのは、専売店制や再販売価格の拘束です。我が国の流通機構に流通系列化という問題があることは、早くから指摘されてきましたが、その後、諸外国からも、流通系列化が日本の市場の閉鎖性を示す顕著な問題点として取上げられるようになってきました。平成元年に開始された日米構造問題協議における米国からの指摘がその代表的なものです。公取委は、このような指摘も受け、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日。「流通・取引慣行ガイドライン」)を策定・公表するとともに、違反事件の積極的な立件を行っています。このため、不公正な取引方法の中でも、広義の拘束条件付取引に係る条項は適用される件数の多いものとなっています。

[2] すなわち、同ガイドライン第1部第2‐2‐(1)‐イにおいて、「市場における有力な事業者が、(中略)取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者(中略)の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為、取引先事業者に自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者との取引を拒絶させる行為、取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者の商品と競争関係にある商品(中略)の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為を行うことにより、市場閉鎖効果が生じる場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶)、11 項(排他条件付取引)又は 12 項(拘束条件付取引))。」とされています。ここにいう「市場閉鎖効果」とは「非価格制限行為により、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる」効果を意味します(同ガイドライン第1部‐3‐(2)‐ア)。また、同ガイドライン第1部‐3‐(4)において、「「市場における有力な事業者」と認められるかどうかについては、当該市場(制限の対象となる商品と機能・効用が同様であり、地理的条件、取引先との関係等から相互に競争関係にある商品の市場をいい、基本的には、需要者にとっての代替性という観点から判断されるが、必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮される。)におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となる。ただし、この目安を超えたのみで、その事業者の行為が違法とされるものではなく、当該行為によって「市場閉鎖効果が生じる場合」又は「価格維持効果が生じる場合」に違法となる。 市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者がこれらの行為を行う場合には、通常、公正な競争を阻害するおそれはなく、違法とはならない。」としています。

[3] 勧告審決平成10年9月3日審決集45巻148頁(ノーディオン事件)や勧告審決平成17年4月13日審決集52巻341頁(インテル事件)は、このような場合に該当する事例です(もっとも、これら両事件においては、競争者の事業活動の排除のみが認定されました)。

[4] 専売店制以外の事例として、勧告審決昭和56年7月7日審決集28巻56頁(大分県酪農業協同組合事件)を挙げておきましょう。本件においては、県内で酪農業を営む者等を組合員とし、組合員が生産する生乳の販売等の事業を行っている大分県酪農業協同組合(県内で生産される生乳の約9割を一手に集荷し、その販売量は飲用乳製品を製造する乳業者の県内の生乳総購入量の9割強を占めています)が、乳業者に対して自己の競争者から生乳の供給を受けないことを条件として取引していることが、排他条件付取引(昭和28年一般指定7号(現平成21年一般指定11項))に該当するものとされました。

[5]  独占禁止法2条9項4号の再販売価格の拘束は、「当該商品の販売価格」のみが対象となっているため、当該商品を用いた役務の価格や役務の再販売価格の拘束に対しては、同項は適用されず、平成21年一般指定12項(拘束条件付取引)が適用されます。例えば、①勧告審決昭和58年7月6日審決集30巻47頁(小林コーセー事件)は、ロレアル・ソシエテ・アノニムというフランスの商標を使用した化粧品を我が国で製造販売している株式会社小林コーセーが、コールド式パーマネントウエーブ液を代理店を通じて美容室に販売するに当たり、同液を使用して施術するパーマネント料金を最低6,000円とすることとさせたことについて、また、②勧告審決平成15年11月25日審決集50巻389頁(20世紀フォックスジャパン事件)は、米国事業者から配給を受けた映画作品を日本の映画上映者に配給する事業を営む20世紀フォックスジャパン社が上映者が入場者から徴収する入場料を制限したことについて、それぞれ、昭和57年一般指定13項(現平成21年一般指定12項)を適用しました。

[6] 最判昭和50年7月10日民集29巻6号888頁(第1次育児用粉ミルク(和光堂)事件)。

[7] 同意審決平成7年11月30日審決集42巻97頁(資生堂再販事件)は、サンプルの提供や販売促進の支援という経済上の利益の供与を手段とした化粧品の再販売価格の拘束の成立を認めました。

[8] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第1‐2‐(7)‐①も同旨。

[9] 審判審決昭和52年11月28日審決集24巻106頁(第2次育児用粉ミルク(森永乳業)事件)は、真正の委託販売とは認められない委託販売制について、実質的に再販売価格の拘束による場合と同様の効果を挙げるために実施されているものとして違法としました。

[10] 特定のブランド商品について販売業者間で行われる競争のことをブランド内競争と言い、複数のブランド商品の相互間において、製造業者間、販売業者間で行われる競争のことをブランド間競争というところ、再販売価格の拘束の公正競争阻害性の内容は、価格面のブランド内競争を消滅させることであるということとなります。

[11] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第1‐2‐(7)‐②も同旨。

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