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  • 2021.11.26

独占禁止法について〔その15〕

独占禁止法について〔その15〕

 

独占禁止法違反行為の一つである不公正な取引方法について、ご説明しています。

今回は、不公正な取引方法の行為類型の中の最後になる「取引妨害・内部干渉」をご説明した後、不公正な取引方法に対する措置について、ご説明します。

 

  1. 取引妨害・内部干渉

(1) 総説

独占禁止法2条9項6号ヘを受けて、平成21年一般指定14項・15項に競争者に対する取引妨害・競争会社に対する内部干渉に係る具体的な行為類型が規定されています。

ある事業者が、競争関係にある他の事業者から、取引を不当に妨害されたり、自社の不利益となるような内部への不当な干渉を受けることは、公正かつ自由な競争の下でその事業活動を展開していく上で障碍となります。

取引妨害・内部干渉を規定した平成21年一般指定14項・15項には、「不当に」という評価的要件が用いられています。これは、原則として違法となるのではなく、個別に公正競争阻害性が備わってはじめて違法となることを示すものです。

取引妨害・内部干渉が持つ公正競争阻害性の内容について、学説上は、競争手段の不公正さを基本としつつ、特に同指定14項の取引妨害については、副次的に自由競争の減殺の側面からも説明する見解が有力となっています。

この有力説がここに競争手段の不公正さを挙げるのは、本来、競争というものは、商品・役務の価格や品質によって顧客を獲得しようとすることである(能率競争)にもかかわらず、競争関係にある他の事業者の取引を直接的に妨害したり(例:物理的な障壁を設けて取引を妨害する行為)、競争関係にある会社の内部に干渉することは、能率競争を損なうこととなるという認識に基づくものです。

この説明は、同指定15項の内部干渉についてはそのまま妥当しますが、同指定14項の取引妨害については、上記の説明中にもあるように、その具体的態様として直接的な妨害行為を念頭に置くものです。すなわち、競争が能率競争として行われる以上、競争関係にある事業者相互間には何ら直接的な関係は存在しないのが通常であるところ、同指定14項の行為類型は、行為者が競争関係にある他の事業者に直接的に働きかける妨害行為を対象とするものであるから、競争手段の不公正さという側面の公正競争阻害性が問題となるとするのです。

これに対して、競争関係にある他の事業者に対する直接的な妨害行為ではなく、競争関係にある他の事業者の取引の相手方に影響力を及ぼすことによってその取引を妨害するという間接的な妨害行為に対して同指定14項を適用する事案が近年増加してきていることから、そのような場合における公正競争阻害性の内容として、自由競争の減殺の側面からの説明がなされるようになってきているのです。

しかしながら、間接的な妨害行為に同指定14項を適用することについては、上記の有力説の中にも、批判的な見解があります。これは、間接的な妨害行為については、別途、排他条件付取引(同指定11項)、拘束条件付取引(同指定12項)、優越的地位の濫用(2条9項5号、同指定13項)などの行為類型が規定されているにもかかわらず、それに同指定14項を適用することは、それらの規定の行為類型の要件を充足するか否かの吟味を怠って、「その取引を不当に妨害すること」という抽象的、包括的な要件を持つ同指定14項を用いて安易に違反とすることとなり、違法となる行為が広がり過ぎるおそれがあるからです。

思うに、競争とは、事業者が、ある商品・役務の供給又は需要に関して、取引相手を獲得するために、他の事業者と競い合う過程を意味するところ、その過程において、競争関係にある各事業者が、取引相手として獲得の対象とされる者にとってより有利な取引条件をそれぞれ提示する努力を行うことは当然であり、その結果、競争に勝つ者と敗れる者とが現れることも理の当然です。このような競争の当然の結果を敗者の取引が妨害されたものとして違反とするようなことがあっては、却って経済の活力を損なうこととなってしまいます。それゆえ、同指定14項は抽象的、包括的な文言で要件が規定されているとは言え、解釈上、その要件には適当な絞りをかけることが必要となります。

したがって、同指定14項を適用するには、公正かつ自由な競争が侵害されるか、又は、公正かつ自由な競争が無意味となるほどに、競争の過程が人為的に歪曲されることとなっているかどうかを慎重に見極めることが必要であると考えられます。また、間接的な妨害行為について他の規定の適用が可能な場合には、それを優先的に適用すべきであると考えます。

次に、同指定15項の行為類型は、行為者が競争関係にある会社の内部に干渉してその会社の不利益となる行為をさせる行為ですから、その会社にとって、自己に有利な取引条件提示のための意思形成の基盤を損なうものであるという意味において、公正かつ自由な競争が侵害されるおそれが生ずることとなり、公正競争阻害性を持つこととなるものと解されます。

なお、この同指定15項は、極めて特異な行為を対象としたものであり、また、実際に適用された事例もないため、以下においては、同指定14項の取引妨害のみについて、若干の事例をもとに説明を加えることといたします。

 

(2) 取引妨害

以下には、取引妨害に係る事例のうち、代表的なものを挙げておきます。

勧告審決昭和35年2月9日審決集10巻17頁(熊本魚事件)は、鮮魚介類の卸売業者が、(イ)競争関係にある卸売業者がその買受人との間の買受契約を更新しようとするに当たり、これらの買受人に威圧を加えて契約の更新を阻止するとともに、(ロ)その卸売業者のせり場の周囲に障壁を設け、障壁の周囲を監視する等により、その卸売業者と買受人との間の取引を妨害したことを取引妨害(昭和28年一般指定11号(現平成21年一般指定14項))に該当するものとしました。この事件においては、(ロ)の行為は、直接的な妨害行為の典型的なものであり、競争関係にある卸売業者の取引条件の提示を困難とするものです。(イ)の行為は、競争関係にある卸売業者の取引条件提示の自由の行使を無意味にするものです。

勧告審決昭和38年1月9日審決集11巻41頁(東京重機工業事件)は、家庭用ミシン、編機のメーカーが、他社と予約販売契約をしている需要者に対して、購入先を自社に変更する場合には、他社に払込み済みの掛け金について500円ないし1000円を限度とする金額を自社の販売価格から差引くことにより、他社とそれらの需要者との契約の不履行を誘引しその取引を妨害したものとして、昭和28年一般指定11号(現平成21年一般指定14項)に該当するものとしました。このような契約不履行の誘引は、上記規定に例示されている妨害手段であり、これにより競争関係にある事業者の取引条件提示の自由の行使を無意味にするものと認められます。

審判審決平成21年2月16日審決集55巻500頁(第一興商事件)は、著作権の行使とみられる行為が取引妨害(昭和57年一般指定15項(現平成21年一般指定14項))に該当するものとされた事案です。この事件においては、業務用カラオケ機器の販売・賃貸やカラオケソフトの制作配信の事業を営む株式会社第一興商(以下「被審人」)は、同業の通信カラオケ事業者である株式会社エクシングから、カラオケソフトの歌詞の色変えに関する特許を侵害しているとして争訟を提起されたことに対する意趣返しとして、自社の子会社であるレコード制作会社2社をして、2社の管理楽曲(レコード制作会社が作詞者又は作曲者からその作品を録音等する権利を独占的に付与された歌詞・楽曲)の使用をエクシングに対して承諾しないようさせるとともに、このような不承諾をさせる旨等を通信カラオケ機器の卸売業者等に告知していました。本件審決は、被審人の本件行為は、エクシングとその取引の相手方(通信カラオケ機器の卸売業者等)との取引を不当に妨害していたものとして、取引妨害(昭和57年一般指定15項(現平成21年一般指定14項))に該当するものとしました(但し、審決は、本件違反行為は既になくなっており、また、被審人が同様の行為を再び行うおそれがあるとは認められないとして、格別の措置を命じませんでした)。本件においては、レコード制作会社がその管理楽曲の通信カラオケ機器における使用を通信カラオケ事業者に承諾するか否かを決定することが著作権法による権利の行使に該当するか否かについて当事者間に争いがあったところ、審決は、当該決定が著作権法による権利の行使に該当するとした場合においても、被審人は、エクシングの事業活動を徹底的に攻撃していくという方針の下、レコード制作会社2社をして、それまで平穏かつ継続的に行われてきた管理楽曲使用承諾契約の更新を突如拒絶させたものであり、また、エクシングの通信カラオケ機器の取引に影響を与えるおそれがあったものであるから、上記の更新拒絶は、知的財産権制度の趣旨・目的に反しており、著作権法による権利の行使と認められる行為とはいえないとして、独占禁止法21条により同法の適用除外となることを否定しました。本件は、間接の単独の取引拒絶(昭和57年一般指定2項後段(現平成21年一般指定2項後段)。被審人がその子会社であるレコード会社に、被審人の競争事業者に対する管理楽曲の使用の承諾を拒絶させたとみる)を適用すべきであったものと考えます。

近年、いわゆる並行輸入を妨害した事案に取引妨害の規定が適用されるケースが増加しています。並行輸入とは、外国事業者が我が国に輸出する商品を輸入総代理店が取扱っている場合に、当該輸入総代理店以外の事業者が当該商品を輸入することです(並行輸入の阻害に関する公取委の独占禁止法上の見解は、流通・取引慣行ガイドライン第3部第2に示されています)。

勧告審決平成8年3月22日審決集42巻195頁(ヘレンド社事件)は、ハンガリー所在のヘレンド・ポーセライン・マニュファクトリー・リミティッド(以下「ヘレンド社」)が製造し高級品であると評価されている磁器製の食器等(以下「ヘレンド製品」)を、同社から一手に供給を受けて、国内で販売している星商事が、並行輸入品が自社の希望小売価格を相当程度下回る価格で大量に販売された場合には、当該並行輸入品について店頭調査を行い、当該製品に付された国番号によりその輸出国を突き止めてヘレンド社に通報し、同社をして、ヘレンド製品を輸入販売業者に供給しないようにさせたことを取引妨害(昭和57年一般指定15項(現平成21年一般指定14項))に該当するものとしました。これについては、昭和57年一般指定15項(現平成21年一般指定14項)の他に、不当な取引制限(独占禁止法3条後段。ヘレンド社と星商事との縦のカルテル又は共同ボイコットとみる)又は間接の単独の取引拒絶(昭和57年一般指定2項後段(現平成21年一般指定2項後段))に該当すると解する見解があります。私は、昭和57年一般指定2項後段(現平成21年一般指定2項後段)の適用は考えられると思いますが、独占禁止法3条後段の適用については、高級品とはいえ特定ブランドの磁器に関する取引を制限したことをもって競争の実質的制限が生じたとみるのは一般的には困難であろうと考えます。

 

  1. 不公正な取引方法に対する措置

(1) 序説

不公正な取引方法に対しては、公取委は、排除措置命令を行うことができます(独占禁止法20条)。排除措置命令は、私的独占や不当な取引制限におけるもの(同法7条)と同じ性格のものです。

課徴金制度は従来設けられていませんでしたが、平成21年の改正により不公正な取引方法の一部の行為類型が同制度の適用対象となりました(同法20条の2ないし20条の7)。

不公正な取引方法に対しては、刑罰は設けられていません。

被害者は、不公正な取引方法をした事業者に対して、損害賠償を請求することができます(同法25条・26条、民法709条・715条)。損害賠償請求権については後述します。

不公正な取引方法については、被害者による差止請求制度が設けられています(独占禁止法24条)。これについても後述します。

以下においては、排除措置命令及び課徴金納付命令についてご説明します。

 

(2) 排除措置命令

不公正な取引方法の禁止(独占禁止法19条)の規定に違反する行為があるときは、公取委は、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(同法20条1項)。既往の同法3条違反行為に対する排除措置命令を規定した同法7条2項は、同法19条に違反する行為に準用されています(同法20条2項)。

審決においては、命ずる排除措置の内容が「主文」として示されます。

具体的な排除措置命令の内容は、個別の事案に応じて様々です。

 

(3) 課徴金納付命令

平成21年改正により、不公正な取引方法のうち、次の五つの行為類型(独占禁止法2条9項1号ないし5号)が課徴金制度の適用対象となりました(同法20条の2ないし20条の7)。

(イ) 共同の取引拒絶(同法20条の2、2条9項1号)

(ロ) 差別対価(同法20条の3、2条9項2号)

(ハ) 不当廉売(同法20条の4、2条9項3号)

(ニ) 再販売価格の拘束(同法20条の5、2条9項4号)

(ホ) 優越的地位の濫用(同法20条の6、2条9項5号)

法定化された五つの行為類型のうち(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四つは、繰返して同一の行為類型の違反行為を行った場合、すなわち、過去10年以内に同一の行為類型の違反行為について排除措置命令又は課徴金納付命令を受けたことがある等の要件を満たす場合にのみ課徴金の納付が命じられます(同法20条の2ないし20条の5)。(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四つについてこのような要件が設けられている理由については、「事業活動を過度に萎縮させないようにする観点から」と説明されています。これに対して、上記の(ホ)については、このような繰返しがなく初めての違反行為であっても、課徴金の納付が命じられます(同法20条の6)。

課徴金制度の適用対象となった五つの行為類型に係る課徴金額算定の基礎となる金額及び課徴金算定率は、次の表に示すとおりです(同法20条の2ないし20条の6)。

 

行為類型 課徴金額算定の基礎となる金額 課 徴 金 の 算 定 率
共同の取引拒絶 当該事業者が供給を拒絶等した相手方事業者の競争者に対し供給した同一の商品・役務の売上額  

 

 

 

3%

 

 

 

 

差別対価 当該行為において当該事業者が供給した商品・役務の売上額
不当廉売 当該行為において当該事業者が供給した商品・役務の売上額
再販売価格の拘束 当該行為において当該事業者が供給した商品の売上額
優越的地位の濫用 当該行為の相手方との間における売上額又は購入額 1%

 

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